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キロクのブログ

変わりゆく風景やものを単なる私的思い入れで記録中。意外とのんびりしてられない。

[本]真実のインパール / 敵国との和解、継承

書籍というより資料と言った方が正しいかもしれない本。
昭和19年の戦局が劣勢となった日本には既に物資はなく、輸送ルートも次々と断たれていき、既に現地調達に頼らざるを得なっていた。

「もし途中に村でもあればそこで米を徴収できるだろう」と言われて送り出され、20日分の食糧を担いで険しい道々を歩いても、現実には村人が食糧を持って既に逃げた後。戦場に到着した頃には、もう手持ちの食糧はなくなっているという状態だったという。主計係はいったいどうやって調達したのだろう?

この本について紹介するなら、終戦後の著者さんについても記しておきたいところ。英国の戦友会との交流を始め、和解運動を推進した人でもある。

 著者の平久保正男さんは、商社に入社後に徴兵され、軍国青年としてビルマに出征、主計士官(食糧調達係)としてインパール戦線に従軍。平久保さんはあるインタビューの中でこう語っている。

貿易商だった父は「日本が生きる道は貿易立国しかない、国防はあってもよいが、あくまで交渉と妥協でいかなければならない」という意見で、国運を武力に賭ける当時の支配的な考え方には大反対でした。
私は師団司令部に着任してすぐ、経理部長からインパール作戦の説明を受けたんです。瞬間、「なんたることか」と思いました。彼は「後方から食料を送れない、そもそもが無理な作戦だと思う」「お前たちの部隊が何週間戦えるかは君たちの双肩にかかっている」
(中略)国家というものは、米一粒、弾薬も補給せずに兵士を戦場に送り出すものなのか、と愕然としました。忠君愛国とか、大東亜共栄圏といった、親父と決して相いれなかった理想が、ガラガラと音を立てて崩れたんです。

(柳原和子著:「在外」日本人 より) 

 戦闘だけでなく、飢餓や悪疫(マラリアや赤痢)による死者の数もすざましく、戦争が終わり、平久保さんは2つの誓いを胸に帰国する。1つは祖国の復興、もう1つは日英兵士の慰霊や関係の修復。

「せっかく祖先が築いた日英の良好な関係を台無しにしたのは、兵士、銃後、また敵味方を問わず、われわれの世代全員の責任だ。すぐにでももどってきて、あなたたちの遺骨を拾い、慰霊します。廃墟と化した祖国の立て直しを自分たちの力で成し遂げ、日英関係をもとの段階まで戻す努力をします」と戦友たちの亡き御霊に誓ったんです。

ロンドンに赴任後、和解を求めて英国の元兵士達のもとを訪ね歩いては、憎悪の念をぶつけられる日々を送っていた。2つ目の誓いを果たせるのはいつのになるのかと心にひっかかり続けていたある日、同じインパール作戦でコヒマに従軍した2人の英国人元軍曹がロンドンの日本大使館を訪れる。彼らは平久保さんが考えていたこととまったく同じこと「日本兵士と英国兵士の和解」「日本の戦没者へのお参りをしたい」と言っているという。
それをきっかけに活動は広がっていった。

私たち老兵も年々、死界にいく人が増えています。われわれがいなくなったら、この運動の灯も消えてしまうのでしょうか。
過去を空白にして新しさを求めても長続きしません。
われわれの時代にはこんな戦争があった、そしてその長い間両者に憎しみを残し、それを克服するために私達はこの活動を続けたのだということを、戦後世代に伝え、その基盤の上に立って親善を深めていってほしいと祈るような気持ちでいます。 

 

2008年、2つ目の誓いも果たした平久保さんは戦友たちの元に旅立った。

戦後70年にあたる2015年6月24日、旧日本軍による泰緬鉄道の建設に携わった旧日本兵と、労働を強いられた元英兵捕虜が22日、英ロンドンで対面し、和解の固い握手を交わしたというニュースが掲載されていた。

元英兵捕虜のアチャリーさんは、
「人格ではなく、その人が偶然に属している集団から、その人となりを判断することは誤りだ」
「戦争は軍人ではなく(時の)政府によって行われるものだということを忘れてはいけない」
と強調したという。

 

体験記を読むたび思うこと。
人間ってつらい出来事の方がよく憶えていたり忘れられなかったするけれど、精神状態を保つことすら難しいことを、こんな風に書けるってどれだけ強靭な精神力なんだろう、どんな思いで言葉にしたのか、と思う。私達はなるべく多くの人の話に耳を傾け、資料や本を読み、内容だけでなく、思いをもっと受け止めなくてはならないと思う。

また、戦争を知る世代の多くが、国を復興させることや関係修復、慰霊、次世代に伝えていくことは自分達の役目であり責任だという。ただでさえつらい思いをさせられてきたのに、国と国が始めたことなのに、個人にそんな重くつらい課題を生涯に渡り背負わせてしまう、戦争の終わりって一体どこなの?と思う。
彼らが伝えたいと願う様々な事実や思いを受け継ぐ先である私達は、まずは渡されたバトンを落とさないようにしっかり受け取る役目や責任が、本当はあるのかもしれない。

そう言われたことも、そう教わったこともないけれど。

 

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